百寿正輝信女・・・ 昨年百歳を迎えた彼女はその日新しい名を受けた。
その朝・・・ひとつの鏡に映る親父と私。初めてふたり揃ってお揃いのネクタイを締めている。
棺の中の彼女・・・、まるで楽しい夢でも見ているかのように、穏やかな笑顔で眠っている。
出棺の刻・・・棺を車に収め、家の戸締りをしようとする喪主の叔父。なかなか鍵が閉まらない様子に、誰かが言った。「おばあちゃんが行きたくないと言っているのよ・・おばあちゃんのいたずらね・・・」
お経・・・長いお経が続く中、言葉を覚えたての彼女のひ孫が訳の分からない言葉を叫び続けている。お経と同じようだなと思っていたのは私だけではなかったようだ・・・
火葬場・・・初めて会う従妹の旦那と私、喫煙所で煙草の煙を眺めながらのぎこちない会話と待合室で永遠と続く彼女の娘たち、かしまし娘の会話・・・
寺・・・ぼちぼち墓地に行きましょうと言う駄洒落連発のお坊さんと納骨を済ます。
桜・・・真っ青な空に春を待つ桜の木々、その中で一輪だけが咲いていたのは、花が好きだった彼女を送る小さな奇跡だと思うことにした。
豊作
改めて読んで。
大往生。深いのに健やかな描写ですね。